
許容差とワーストケース解析
抵抗器、ADC、RTDセンサーの誤差要因について、ワーストケースでの積み上げ、RSS法、モンテカルロシミュレーション、設計余裕を使って誤差予算を組み立てます。
執筆・技術レビューElectroDesignForge Engineering Team
編集方針を見る要点: ワーストケース解析は、許容されるパラメータのどの組み合わせでも製品が規定範囲に収まることを確認します。RSSは、誤差が独立したランダム変数である場合の典型的なばらつきを見積もります。モンテカルロ法は分布を可視化します。これら三つの方法を使っても、見落とした影響、ドリフト、経年変化に備える余裕は必要です。
早見表
| 方法 | 誤差寄与e_iの合成式 | 分かること | 使用する場面 |
|---|---|---|---|
| ワーストケース | `E_WC = Σ | e_i | ` |
| RSS | E_RSS = √(Σ e_i²) | 「典型的なばらつきはどの程度か?」 | 標準偏差として扱える、独立で中心化された誤差 |
| モンテカルロ法 | モデルの入力をランダムに抽出 | 「分布と規格外率は?」 | 非線形モデル、既知の分布、相関がある場合 |
| 余裕 | 誤差配分後の限界値までの距離 | 「現実の変動にどれだけ残っているか?」 | 設計を確定する前には常に必要 |
誤差を合成する前に、すべての寄与を同じ出力量へ換算します。たとえばADC入力の電圧、抵抗、摂氏温度、利得の割合、ADCコード値です。±1%の許容差が自動的に1%の標準偏差になるわけではありません。
測定可能な要件から始める
方法を選ぶ前に、伝達関数と限界値を記します。ADCで読み取る抵抗分圧回路なら、
V_meas = V_exc × R_low / (R_high + R_low)
0.10 V ≤ V_meas ≤ 3.20 V
温度測定系なら、temperature error ≤ ±0.5 °Cを−20 to +80 °Cの全範囲で満たすという要件が考えられます。ADCなら「最大信号でも飽和しない」または「総誤差を2 LSB未満にする」などです。各寄与をその要件と同じ単位で表します。
次の用語を区別します。
- 許容差:部品や基準源に指定された限界値。
- ドリフト:温度、経年、電圧、時間による変化。
- 誤差:測定結果の真値からのずれ。
- 不確かさ:推定値に割り当てる区間またはばらつき。
- 余裕:ワーストケースの結果と限界値の間に意図して残す幅。
許容差の加算:ワーストケースの誤差配分
出力を一方向に悪化させる寄与e_iは、絶対値を加算します。
E_WC = |e_1| + |e_2| + … + |e_n|
これは、すべての変数が同時に最も不利な値を取ると仮定します。保守的ですが、全個体で仕様を満たす必要がある場合、データシートの限界が保証値である場合、出力が飽和し得る場合に適しています。
計算例:ADC基準源と分圧回路
測定誤差を±20 mV以内に収める必要があるとします。各寄与を測定ノードに換算すると、
| 最大の誤差要因 | 入力換算の誤差 |
|---|---|
分圧比(抵抗±0.1%) | ±4 mV |
| ADC基準源:初期精度 | ±5 mV |
| ADC基準源:温度ドリフト | ±3 mV |
| ADCオフセット | ±2 mV |
| フィルター後の雑音:保守的な上限 | ±1 mV |
E_WC = 4 + 5 + 3 + 2 + 1 = ±15 mV
margin = 20 − 15 = 5 mV, or 25% of the limit
二つの限界値が打ち消し合うと、根拠なく考えないでください。基準源の正方向の誤差と、不利な分圧比は同時に起こり得ます。乗算的な量(gain、R × C)は、まず上限側と下限側の組み合わせを計算します。偏差が小さい場合は百分率で扱うこともできます。
RSS:二乗和の平方根は「緩いワーストケース」ではない
独立し、中心化され、すでに標準偏差σ_iで表された誤差なら、合成標準偏差は次のとおりです。
σ_total = √(σ_1² + σ_2² + … + σ_n²)
対象とする信頼水準によって範囲は変わります。正規分布では、±1σが約68.3%、±2σが約95.4%、±3σが約99.7%を含みます。したがって「±x%」という許容差を、意味を確認せずそのままRSSで合成してはいけません。
抵抗の±1%が一様分布の上限として指定される場合、よく使う近似はσ ≈ 1% / √3です。データシートに±3σの限界がすでに記載されていればσ = limit / 3です。これらの変換は仮定なので誤差配分に明記し、入手できるならメーカーの分布データを優先します。
RSSが不適切になる場合
- 寄与が相関する場合。同じ回路の二つの抵抗が一緒にドリフトする、同じ基準源を複数チャネルで使う、温度が複数項に影響するなど。
- 項が決定論的な限界の場合。保証された絶対精度、校正バイアス、ソフトウェアの制限、電源変動など。
- 結果が飽和に近い場合。クリッピングは非線形で非対称です。
- 分布の裾が不明、または分布が正規分布から大きく外れる場合。
その場合は決定論的な項をRSSの外で扱うか、共分散を導入します。二項ならσ² = σ_1² + σ_2² + 2ρσ_1σ_2で、ρは相関係数です。ρ = 1では統計的な低減効果がなくなり、寄与は加算されます。
モンテカルロ法:モデルの分布を見る
モンテカルロ法はモデルを置き換えず、ランダムに選んだ入力でモデルを繰り返し評価します。手順は次のとおりです。
- 出力の関係式と合否の限界値を記します。
- 各入力に根拠ある分布を割り当てます。有界な一様分布、正規分布、測定した分布、実際の生産ロットなどです。
- 相関をモデルに含めます。共通の周囲温度や同一ロットの部品は独立した抽出ではありません。
- 十分な回数を実行し、平均、標準偏差、分位点、規格外の割合を記録します。
- 仮定を変えて再実行し、結論が保たれるか確認します。
たとえば100,000回の試行では10⁻3程度の裾を調べられますが、10⁻6の規格外率を証明できません。欠陥率の厳しい要件では、裾の解析、保証限界、生産時の検証を組み合わせます。試行で規格外が出なかっただけで「欠陥ゼロ」と主張しないでください。
モンテカルロ法は、RTDの非線形性、線形化多項式、分圧比の厳密な計算、ADCの電圧からコード値への変換で特に役立ちます。平均がずれた分布も見つけられます。ばらつきが狭くても、平均にバイアスがあれば結果は不適切です。
余裕:誤差配分を実用にするための予備
上限値L_maxと、計算した出力の最大値y_maxに対して、
absolute margin = L_max − y_max
relative margin = (L_max − y_max) / L_max × 100%
範囲指定なら両側の限界値に対する余裕を計算し、小さい方を採用します。余裕はRSSに無条件で足す「追加誤差」ではありません。モデルに含めていない影響、ロット差、組立、経年変化、試験条件、将来の変更を吸収するための設計上の選択です。
たとえば「ADCフルスケールに対して少なくとも20%の余裕」や「ワーストケースの誤差配分後に少なくとも0.1 °Cの余裕」といった目標を記録します。ゼロに近い量では、百分率より物理単位で表す方が明確です。
実例:RTDとADCの測定系
励起電流、リード線抵抗、増幅器、ADCを含むPt100の測定系を考えます。選んだ温度で各影響を°Cに換算します。
| 影響 | 評価方法の例 |
|---|---|
| IEC 60751のRTDクラス | センサーの限界値で、通常はワーストケースの誤差配分に含めます |
| 2/3/4線式のリード線 | 温度範囲の端点で抵抗と不一致を計算します |
| 自己発熱 | 最大電流と実際の組立状態での熱係数を使います |
| 基準源とアナログ利得 | 局所的な感度dV/dTを使い、誤差を°Cへ換算します |
| ADCオフセット、INL、雑音 | 同じ温度点でVまたはLSBを°Cへ換算します |
| 線形化 | アルゴリズム誤差、分解能、丸めを確認します |
感度は範囲全体で一定ではありません。同じ1 mVでも、曲線上の位置によって異なる温度差に相当します。低温、中温、高温、電源と周囲温度の端点、センサーと部品の限界など、複数の条件で誤差配分を評価します。
推奨する手順
- 要件、動作範囲、限界値、出力単位を列挙します。
- 初期仕様、温度、時間、電源、雑音、量子化、組立、校正による寄与をすべて集めます。
- 各項の符号と感度を記し、出力の単位へ換算します。
- まずワーストケースの端点を計算し、飽和や負の余裕を解消します。
- 真に統計的かつ独立した項だけを、明示した信頼水準でRSS合成します。
- 非線形モデル、測定分布、歩留まりの検討にはモンテカルロシミュレーションを使います。
- 校正が製品に含まれるなら校正後も含め、すべての端点で残りの余裕を割り当てて検証します。
- 示したい仕様より精度の高い測定方法で実機を検証します。
よくある落とし穴
- 同じ出力量へ換算していない百分率の許容差を足すこと。
- データシートの限界値を標準偏差とみなしてRSSで合成すること。
- 温度ドリフト、経年変化、基準電圧、リード線抵抗を見落とすこと。
- 温度、ロット、電源、校正を共有する寄与を独立と仮定すること。
- モンテカルロ法の結果をワーストケースの保証とみなすこと。
- 公称条件だけで余裕を確保すること。役立つ余裕は誤差配分の後に計算します。
関連する計算機
- 抵抗許容差計算機を開く:温度範囲で初期許容差とTCRを合成します。
- ADC/DAC計算機を開く:LSB、量子化、入力範囲、変換コードを確認します。
- RTDラボを開く:2/3/4線式配線、センサー誤差、自己発熱、ADC分解能を比較します。
参考資料
- JCGM 100:2008 — Evaluation of measurement data — Guide to the expression of uncertainty in measurement(GUM)。
- NIST Technical Note 1297 — Guidelines for Evaluating and Expressing the Uncertainty of NIST Measurement Results。
- IEC 60751 — 産業用白金測温抵抗体と許容差クラス。
- 使用する電圧基準源、ADC、増幅器、RTDのデータシート。